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名古屋地方裁判所 昭和35年(行)27号 判決 1965年2月27日

原告 錦観光自動車株式会社

破産管財人 早川登

補助参加人 株式会社大垣共立銀行

被告 名古屋東税務署長

訴訟代理人 松崎康夫 外五名

主文

被告が昭和三三年三月一八日附でなした、訴外錦観光自動車株式会社の昭和三一年度の所得金額を一三六九万七〇〇〇円、法人税額を五四五万三八〇〇円、過少申告加算税額を一七万一八五〇円、重加算税額を一〇〇万八〇〇〇円とした更正決定は、これを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として、

一、訴外錦観光自動車株式会社(以下訴外会社という。)は昭和三三年八月三一日破産宣告決定を受けた法人であり、原告はその破産管財人であるが、訴外会社は、昭和三二年二月二八日被告に対し、訴外会社の昭和三一年度の法人税の確定申告につき、損失勘定として原告補助参加人に対する債務金三三二〇万円の当期末現在の未払利子を、日歩二〇銭の割合による二四一〇万七四六六円として計上申告したが、被告は、昭和三三年三月一八日付でこれを日歩二銭五厘の限度において認め、その余の超過金二一〇九万四一二八円を否認してこれを利益勘定に計上し所得金額を一三六九万七〇〇〇円、法人税額を五四五万三八〇〇円、過少申告加算税額を一七万一八五〇円、重加算税額を一〇〇万八〇〇〇円と更正決定し、同日原告にその旨通知した。

二、そこで、原告は、右決定事項に関する調査が名古屋国税局の収税官吏によつてなされたものであるところから、昭和三三年四月一〇日名古屋国税局長に対し審査請求をしたが、昭和三五年九月三〇日付で棄却の決定がなされ、同日その旨原告に通知された。

三、しかしながら、右未払利子に関する約定は、訴外会社が昭和二九年三月三一日補助参加人から手形取引による金三四〇〇万円の融資を受けた時になされたものである。また、昭和三三年二月一五日名古屋高等裁判所における補助参加人の右利息金債権に関する破産債権確定訴訟の口頭弁論期日において、訴外会社から右未払利子につき認諾がなされ、認諾調書が成立したことにより、右未払利子の存在は確定されているのであつて、債権者その他利害関係の何人も異議を主張し得ないことになつたしかるに、被告は、右約定の存在及び右認諾調書の成立を無視し、右更正決定をなしたものであるから、同決定は、その所得金額の算定を誤り、過大な法人税を課する違法の決定であるから、その取消を求める。

と述べ、被告の主張に対して、原告及び原告補助参加人訴訟代理人は、

一、税法上の決算並びに納税申告の正否は、その内容・実質によつてきめるべきもので、会社内部の手続の瑕疵の有無により左右されるべきものではないから、被告のこの点の主張は理由がない。

二、本件認諾調書の効力が財団債権に及ばないとの主張は否認する。また、認諾は既存債務の確認であるから、この点に関する被告の主張も理由がない。

三、訴外中山錦二(訴外中山木材株式会社)が、被告主張のような経緯で金三四〇〇万円の融資を受けたものであることは認める。しかしながら、右融資については、補助参加人に対する実質上の主債務者は訴外中山錦二(訴外中山木材株式会社)であつたから、訴外会社の設立後は、手形の書替・内入・利払等はすべて訴外会社において処理して来た。

と述べた。

被告指定代理人等は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁及び主張として、

一、請求原因第一項は認める。しかし、株式会社の計算書類は、株主総会の承認を得ることにより、はじめて形式及び内容にわたつて確定するものである。しかるに、訴外会社の代表取締役職務代行者大内正夫の作成した決算書は、株主総会の承認を得ていないから未確定のものであり、訴外会社の納税申告は不適法である。

二、同第二項は認める。

三、同第三項中、原告主張の認諾調書が成立していることは認めるが、その余の事実は否認する。右認諾調書の効力は、被告の財団債権には及ばない。また、仮に認諾により確定債務を負担したことになるとしても、それはその時に成立したもので、同年度の債務として処理されるべきものであるから、係争年度の分には帰属しない。

四、被告の更正決定には瑕疵がなく、全く適法である。これを詳述すると次のとおりである。

(一)  名古屋国税局長が審査した所得金額は、次のとおりである。

(1)  申告所得   欠損  一四九一万七六〇五円

(2)  申告所得金額に加算したもの

損金に計算した県市民税         一五〇〇円

減価償却の償却超過額      一三五万四一六二円

損金支出役員賞与          六万二〇〇〇円

未払金              一一万三七三七円

土地               三二万〇五〇〇円

未収入金             一〇万四〇〇〇円

未収賃貸料             二万一五四七円

預金                六万九三八六円

貸付金             六三九万六八一七円

貸付金利息            二三万三八九〇円

未払利息(遅延損害金)    二四一〇万七四六六円

交際費限度超過           九万七九七六円

仮払金                  一〇万円

有価証券                一九四万円

現金              一〇八万六七八七円

保証金                   九万円

当座預金             一五万一六七三円

加算したものの合計      三六二五万一四四一円

(3)  申告所得金額から減算したもの

減価償却の償却超過額の当期認容額  二万四六四一円

未納事業税               四八六〇円

架空現金                二六一七円

架空未収入金          四四一万四〇〇〇円

前期否認預金            六万八二九二円

遅延損害金年六分相当額     二〇一万八九〇九円

減算したものの合計       六六三万三三一九円

(4)  差引所得金額     一四七〇万〇五一七円

(二)  ところで、訴外会社が計上した本件未払利息二四一〇万七四六六円については、訴外会社と補助参加人との間に、原告主張のような違約損害金に関する特約は存しない。即ち、訴外中山錦二は、昭和二八年四月頃観光バス事業を始めようと考え、補助参加人からその資金の融資について内諾を得たうえ、当時経営していた訴外中山木材株式会社(以下訴外中山木材という)の名義で、訴外中部日野ジーゼル株式会社(以下訴外中部日野という)から観光バスを購入したが、補助参加人において右融資につき日本銀行の同意を得られなかつたため、訴外中部日野とはかり訴外中部日野に金三四〇〇万円を融資し、訴外中部日野はこれを訴外中山木材に貸付けて、右バス代金に充当することにした。そこで、補助参加人は、昭和二九年三月三一日訴外中部日野との間に、手形取引基本約定書による契約を結び、訴外中部日野から右金員相当額を額面とする約束手形の振出を受けて、右金員を交付した。そして、訴外中山木材は、訴外中部日野に対し右金員相当額の約束手形を振出して、右金員を借り受け、右バス代金に充当した。また、右約定書には、訴外中部日野の代表者であつた訴外川村要作及び訴外中山錦二がそれぞれ連帯保証人として署名した。その後、訴外中山木材の右手形は七回書替られ、手形金額は三三二〇万円に減り、振出人は訴外中山木材から訴外会社に代つたものである。

従つて、右融資について、補助参加人に対する債務者は、訴外中部日野であり、内入・利払等もすべて訴外中部日野からなされている。

(三)  以上の理由によつて、名古屋国税局長は、右計上額を否認し、商事法定利率年六分の割合による二〇一万八九〇九円の限度でこれを認容したが、被告が更正決定により認容した日歩二銭五厘の割合による金額は、これを上回るものであるから、被告の右更正決定に違法な点はない。

と述べた。

(証拠省略)

理由

一、訴外会社は、昭和三二年八月三一日破産宣告を受けた法人であり、原告はその破産管財人であること、訴外会社が、昭和三二年二月二八日被告に対し、訴外会社の昭和三一年度法人税の確定申告につき、損失勘定として、補助参加人に対する債務金三三二〇万円の当期末現在の未払利子を、日歩二〇銭の割合による二四一〇万七四六六円として計上申告したこと、被告は、昭和三三年三月一八日付でこれを日歩二銭五厘の限度において認め、その余の超過金二一〇九万四一二八円を否認して、これを利益勘定に計上し、所得金額を一三六九万七〇〇〇円、法人税額を五四五万三八〇〇円、過少申告加算税額を一七万一八五〇円、重加算税額を一〇〇万八〇〇〇円とする旨決定し、同日原告に通知したこと、右決定事項に関する調査が名古屋国税局の収税官吏によつてなされたため、原告は昭和三三年四月一〇日名古屋国税局長に対し審査請求をしたが、名古屋国税局長は右審査請求を昭和三五年九月三〇日付で棄却し、同日その旨原告に通知したこと、訴外会社が、昭和三三年二月一五日名古屋高等裁判所における補助参加人の右利息金債権に関する破産債権確定訴訟の口頭弁論期日において、右未払利子につき原告主張のように認諾し、認諾調書が成立していることについては、いずれも当事者間に争がない。

二、そこで先づ、右認諾調書の効力について考察するに、認諾調書は確定判決と同一の効力を有するところ、破産債権確定訴訟における確定判決は、破産債権者の全員に対して効力を有するが(破産法第二五〇条)、破産債権者でない財団債権者に対してはその効力を有するものではないから、この点に関する原告等の主張(請求原因第三項)は理由がない。

三、そこで次に、原告主張の利息金の有無につき考察する。

(一)  成立に争いのない乙第五、第七、第八、第一一、第一二及び第一九号証によれば、訴外中山木材の代表取締役であつた訴外中山錦二は、昭和二八年四月頃、訴外会社の設立に当り、訴外中部日野から観光バスを買入れたが、その代金を補助参加人から融資を受ける予定であつたところ、補助参加人は日本銀行の同意を得ることができなかつたので、訴外中山錦二、補助参加人及び訴外中部日野の三者が協議の上、補助参加人から訴外中部日野に貸付ける形式を取つて、訴外中山錦二(訴外中山木材)に融資することとし、ここに手形取引基本約定書(乙一九号証)を作成し、訴外中部日野が主債務者として訴外中部日野の代表取締役であつた訴外川村要作及び訴外中山錦二が連帯保証人として、それぞれこれに署名し、訴外中山錦二(訴外中山木材)は、訴外中部日野を経て補助参加人から金三四〇〇万円の融資を受け、右バス代金に充当した。そしてその際、訴外中部日野は補助参加人宛に、訴外中山木材は訴外中部日野宛に、それぞれ右金員相当額の約束手形を振出し、右手形二通を(訴外中山木材振出の約束手形は担保として)補助参加人に差入れたが、訴外会社の設立後は、右訴外中山木材振出の約束手形を訴外会社名義で書替え、この間、訴外会社において、補助参加人に対し金八〇万円の内入・利払をなし、七回目の書替手形が原告主張の本件基本債務金三二〇〇万円に該当することが、それぞれ認められ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(二)  右の認定事実によれば、補助参加人は、日本銀行の同意を得ることができなかつたため、訴外中山錦二(訴外中山木材)に直接融資することを取止め、訴外中部日野に一旦貸付ける形式を取つたもので、右三者の意図は、結局訴外中山錦二(訴外中山木材)に融資することにあつたのだから、右当事者の意図から考えると、訴外中山錦二(訴外中山木材)は、補助参加人に対して、右基本債務を負担するに至つたものと解すべきである。そして、又、訴外会社の設立後は、訴外中山木材振出の右約束手形を訴外会社名義で書替えているのであるから、この点から考えれば、訴外会社は補助参加人に対して訴外中山錦二(訴外中山木材)の右基本債務を引受けたものと認めるのが相当である。

(三)  ところで、前掲乙第一九号証によれば、右基本債務の元金一〇〇円につき一日金二〇銭の割合による遅延損害金の約定がなされていることが認められ、右認定にてい触する乙第一号証は証人村田俊太郎の証言に照して直ちに採用し難く、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

四、被告は、訴外会社の納税申告は、株主総会の承認を得ていない決算書に基くものであるから不適法である旨主張するが、法人税法が納税申告につき確定した決算(本件の場合株主総会の承認を得た計算書類)によるべきことを要求するのは、申告の正当性を確保するためであるが、被告はこれに拘束されるものではなく、独自に職権調査を行い、正当な所得及び税額を算定し得るものであるから(法人税法第三一条、国税通則法第二四条参照)、被告の右主張は理由がない。

五、よつて、本件未払利子を否認して算定した被告の更正決定には瑕疵があり、違法といわねばならぬから、これを取消すこととし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口正夫 浪川道男 寺本栄一)

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